今年の8月に、ITZYは2020年2度目のカムバックを行った。タイトル曲は「NOT SHY」だった。blackpinkのヒットをおそらくきっかけとして、2019年から20年にかけ数々の事務所がいわゆるガールクラッシュに力を入れ、自立した意志を持った女性像や強い女性像を全面に押し出したグループが誕生した。
ITZYもその一つとわたしは位置付けていて、wannabeという歌がわたしとITZYの出会いであったが、楽曲に惹かれた理由の大きな一つが、「I don't wanna be somebody I just wanna be me」という歌詞でもあった。それまで興味を持っていなかったが、メッセージの強さに惹かれたのは事実だったし、だからyoutubeで勧められたITZYのインタビュー形式のドキュメンタリーもなんとなくクリックしていた。
とても、衝撃を受けた。ITZYのファンでもなんでもないわたしが、この映像について記事を書きたいと強く思った。この映像がリアルタイムで配信されたのは8月であるが、ずっと心に引っかかっていて、先延ばしにしていたが2020年のうちに記事にしておこうと思う。映像を見ていない方のためにざっくりと説明すると、この動画はファンに向けてのメッセージでもあり、一人一人が投げかけられた質問に対して真剣にそして率直に答えてくれた映像だと思う。特に印象に残った部分について、以下にまとめたい。
1. リア アイドル自身が感じていた劣等感
私は、リアちゃんが好きだ。グループの中でも彼女は、真顔から笑顔になるときのギャップが向日葵が咲いたように可愛くて明るい印象を持っていた。彼女のポジションはメインボーカルで、他のメンバーに比べると、ダンスの実力的な部分で世間から指摘されていた時期があったようだった。
今回彼女は、4人がステージで楽しそうにしている時に「私とは違うんだ」と感じてしまった話、特に強くてかっこいいコンセプトに自分の実力が追いついていないことに対する苦しみを語っていた。
どんなことがあっても笑顔を絶やさない彼女が、ただ耐えることで乗り越えると語っていたのは辛いものがあった。けれど私は、メンバーにすら、自分とは違うなと感じてしまうその奥底にある気持ちを、勇気を出して言葉にしてくれた彼女に拍手を贈りたいと思う。
この動画全体のメッセージでもあると思うのだが、アイドルも人間であり、我々と変わらない思いを抱きながら日々を過ごしていることの象徴であるように感じた。自分だけが取り残され、置いていかれているようになるあの気持ちを、彼女も抱えながらそれでもコンセプトやイメージを守るために泥臭く生きているんだと思うと、胸が動かされた。アイドルは人から羨ましがられる存在であるように思える。でもそんな人も、人知れず劣等感などと戦っているんだと思った。
2. イェジ 自分の感情を表現できない悩み
イェジちゃんは、グループのリーダーであり、とてもしっかりした人だというイメージをにわかの私は抱いていた。しかし彼女は自分に対して申し訳ないという。自分の気持ちを人に打ち明けたり、表すことが苦手なままでいることが悩みなのだそうだ。
溜め込んで爆発する自分に、リアちゃんが日記をくれたという。でも彼女にとっては、日記にすら、自分の気持ちを正直に書くことが難しいという。大きな責任やプレッシャーを日々背負いながら、無意識に気持ちに蓋をすることが習慣づいてしまったのかな、なんて思ってしまった。
悲しい時に悲しむ。そんな普通のことすらも、アイドルは周りや世間の反応を気にしてしまう世界なのかなと思うと少し切なくなった。いつか、アイドルが完璧な聖人ではなく、もっと人間らしくあることを肯定されるようになってほしいと思った。
3. チェリョン アイドルとヘイト
チェリョンちゃんのパートが、個人的に一番胸に迫るものがあった。
twiceを生み出したオーディション番組からずっと練習生を続けてきて、デビューが夢だった彼女が、沢山の心ない中傷に、「こんなに人に嫌われるなら意味がない」と思ってしまった。とても残酷で悲しい事実だと思う。
アイドルといえども、1人の等身大の若い女性で、誹謗中傷されれば傷つくし、自分のことについて悩んでいるのは同じなのだと思った。ITZYの歌のコンセプト「私は私、人の目は気にしない」そんなふうに生きられる人は実際あまりいないと思うと、言い切れることが彼女の強さだと思った。コンセプトを守るために頑張ってきたアイドル自身が、実際の自分は曲とは真逆の人間だと認めそれをファンに伝えるのはとても勇気がいっただろうな、と思う。そしてそうまでしてでも、アイドルを人間のように扱わずヘイトを浴びせる人々への警鐘を鳴らしてくれたのだと私は思う。
これ以上書くと長くしてしまうので、本編についてのまとめはここまでにする。リュジンちゃんとユナちゃんもそれぞれ、体型管理など苦しんでやっているわけではなく楽しんでしているということ、人に評価される時相対的なものではなくITZYをそのまま見てほしいという話、そしてユナちゃんは無意識に人から嫌われないような言動をするようにしているうちに、本当の自分が分からなくなってしまったという話をしていた。
このドキュメンタリーを通じ、一番伝えたかったことは何だろうか。見終わって考えてみたが結局は
「アイドルも人間であり、人の辛さや悩みは相対的なものでない」ということではないだろうか。
自分の意思を持ち、自分を大切にして、堂々としている。そんな女性をコンセプトとして活動していること自身が、本人たちには時には重圧となり、プレッシャーとなり苦しんでいたのだということ。コンセプトそのものとアイドル本人たちは完全に同一ではないということを、私たちは胸に留めておく必要があると思う。そしてまた、求められるイメージと実際の自分達の姿の乖離に辛さを感じているのは、アイドルもまた同じであるということ。
今回のドキュメンタリーは、ITZYのメンバーにファンがより親近感を抱かせ、ファンダムを結束させる力と、世間から彼女たちに向けられる誹謗中傷を抑止するという意味でとても理にかなった内容でもあったと思う。前々からJYPのアイドルは、他の事務所に比べて「親近感」を感じるアイドルが多いように感じた。それはサバイバル番組の多用などの手法もあると思うが、このビデオは、ただファンとメンバーの距離を近づけるだけでなく、昨今取り沙汰されている誹謗中傷問題についてさりげなく釘を指しているあたりがより素晴らしいなと思った。
以下、簡単に私の感じたことをまとめる。
•大手事務所だから苦労していないことなんて絶対にない。辛さは相対的なものではないということ
•しかし同時に、他人の辛さを他人は完璧に分かってあげられることはない。
•ファンがアイドルを慮る気持ちはとても大事だと思うけれど、理解できないからと言ってファンが自分を責める必要はない。
•つまり、人の悲しみや辛さを勝手に決めつけてしまいふるいにかけて分類するのではなく、こんな辛さもあるのかもしれない、もしかしたらこの行動でこの人は苦しむかもしれない、というマインドを持って行動することが大事なのだと思う。
•見えないことと、ないことは同じではない。
外から見て、何もなさそうである子が何かを抱えていたときにショックを受けることはあると思う。けどその事に対して必要以上に気づかなくて悪かったとファンが思う必要はない。完璧に理解することはできないのだから。だからこそ私たちは、他人に対してさまざまな感情の選択肢があることを忘れてはいけない。自分がそうであるように。アイドルも人間であるから。
そして最後に、このビデオで語られている内容は何も女性グループやITZYだけに限られた話ではなく、どの推しグループにもきっと当てはまると思う。だからこそ一度見て、アイドルも人であることを折りに触れてオタクは見つめ直していこうと思った。まる。